「FoundX」の馬田隆明氏に聞く、共同創業者の選び方、スタートアップへの飛び込み方

「ユーグレナ」や「ペプチドリーム」など数々のディープテックスタートアップを生み出してきた東京大学の産学協創推進本部でスタートアップ支援を行う馬田隆明氏にインタビューを実施しました。共同創業者の選び方やスタートアップに飛び込む際に意識すべきことなどを伺いました。

<インタビュー対象者>

馬田 隆明氏
University of Toronto 卒業後、日本マイクロソフトを経て、2016年から東京大学。東京大学では本郷テックガレージの立ち上げと運営を行い、2019年からFoundXディレクターとしてスタートアップの支援とアントレプレナーシップ教育に従事する。スタートアップ向けのスライド、ブログなどで情報提供を行っている。著書に『逆説のスタートアップ思考』『成功する起業家は居場所を選ぶ』『未来を実装する』。

馬田さんがスタートアップや起業家支援を行う背景や目的を教えてください。

マイクロソフト時代に、海外に展開できる日本のスタートアップを米国本社に推薦する仕事を担当したことがあります。そもそも実際に海外に認めてもらえる日本のスタートアップは少なかったのですが、受け入れてもらえたスタートアップには共通して「テクノロジー」の要素がありました。もともと自分自身がテック系のバックグラウンドでもあったこともあり、技術を持ったスタートアップを支援しようと思ったことが、一つの背景です。

また、起業支援プログラム「FoundX」では「イノベーションを可能にし広げることで、ゆとりを生み出し、よりひらかれた社会を作る」というミッションを掲げています。「ゆとり」というのは時間的な余裕やお金の余裕であり、それによってもたらされる心の余裕や社会のゆとりも意味します。こうしたゆとりを産み出すためには、これまでに無かった新しいものを作る必要がある。新しいもの=つまりイノベーティブなものを作るためには、様々なしがらみに縛られることの少ないスタートアップという形態が一番適している、という考えが、現在の立ち位置にいる理由の一つです。

Slideshareで公開されている『スタートアップの“共同創業者”を選ぶ技術』は、多くのスタートアップのバイブルになりつつあると思います。あれから2年が経ち、何かアップデートはありますか?

特にエンジニアの領域では顕著ですが、どこも人材不足です。それは大手やメガベンチャーも同じで、非常に良い条件・高給が約束されるポジションが市場にはあふれてきています。こうした中で、特に創業初期のスタートアップが人材争奪戦に挑む場合、給料ではどうしても勝てないわけです。だからこそ「なぜわざわざこのスタートアップに入るのか?」というビジョナリーな理由がこれまで以上により一層必要になっていることは間違いないと思います。

もっというと、副業という形でスタートアップに少しだけ関わるという選択肢もある中で、「なぜ副業ではなく転職してきてもらうのか、フルコミットをしてもらえるのか」と思うと、やはり「なぜこのスタートアップなのか?」という理由の設定は非常に大事ですね。こうした理由作りを創業者・スタートアップの皆さんはぜひ意識していただきたいと思います。

スタートアップの経営に関わりたいビジネスパーソンに向けてアドバイスをいただけますでしょうか。

私は「勉強していくしかない。」と思っています。どんなスタートアップに関わるにしろ、今あるスキルで一定のバリューを出すべきだとは思いますが、必要なこと全てを知っているなんてありえませんし、その必要もないと思います。

ユニコーン企業と言われているベンチャーのトップですら、企業が成長する限りは、常に新しいことを求められているはずです。スタートアップに経営者として関わる以上、どこかのタイミングで必ずストレッチが求められます。「知らないからできない、やったことないからできない」と思ってしまうこと自体が、もしかしたらスタートアップに不向きなのかもしれません。

東京大学で受け持っている授業では、アントレプレナーシップの定義を「自らのコントロール可能な範囲を越えて好機とリソースを追い求め、社会の課題を解決することにより新たな価値を創造して、それを維持可能な形で提供し続けること」と定めています。これは Harvard Business School の教授であるStevensonの

“Entrepreneurship is the pursuit of opportunity beyond the resources you currently control” (Stevenson 1983, 1985, 1990)

を参考にしたものです。

つまり自分のコントロールできる範囲を超えることがあったら周りのリソースを取ってくればいい。知人に聞けばよいはずです。価値観が合えば飛び込んでみることが大事だと思います。

スタートアップに飛び込むというのはリスクを感じることも多いと思います。そういう方に向けてアドバイスをいただけますでしょうか。

あくまで個人的な意見ですが、私はスタートアップに飛び込むときは「セーフティネットを持っていること」が大切だと思っています。具体的に言うと、

 

  • もしものときに自分を助けてくれるコミュニティを持っておくこと
  • 前職との良好な関係性

 

 

が挙げられると考えています。

特に後者については、前の会社で「もしうまくいかなかったら戻ってきていいよ」と言ってもらえる関係性になるように、立つ鳥跡を濁さないように「きれいに」去ることが大切です。外資系企業では前職への出戻りは一般的なセーフティネットの一つでしたが、最近では日本でも出戻りを食わず嫌いしてはいられないほど人不足が進展していますので、円満退職であれば受け入れてくれるところも多いのではないでしょうか。また、仕事を続けながら副業のような形でスタートアップに関わるというのも、一つのセーフティネットと言えます。まずはそうした小さな取り組みからでも、ぜひ新しい環境に身を置いてみてください。きっと得られるものは大きいはずです。

最後に

Beyond Next Venturesでは、スタートアップ経営や起業に興味があるビジネスパーソンや、研究者との共同創業に興味がある方向けに、プログラムやイベントを実施しています。詳細を知りたい方、弊社担当と繋がりたい方は、ぜひ下記よりお問い合わせください。
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Shota Sagiyama

Shota Sagiyama

Executive Officer / Talent Partner