三國:Beyond Next Venturesで出資先企業の人材支援を担当している三國です。今回、私がモデレーターを務めたイベント「商社出身者が活躍するフィールドはここにある!商社出身者から見るスタートアップの景色とは」のレポートをお届けします。
私もこれまで多くの商社出身者の方と採用面談してきましたが、彼らはビジネス力、交渉力、営業力、仕掛け力、さらにキャッチアップ力など、スタートアップの中ですぐに活かせるスキルを豊富に持っている印象があります。
今回は、丸紅出身で現在リージョナルフィッシュのCOOとして活躍する石本俊輔氏と、同じく丸紅出身でBeyond Next Venturesのアグリ・フードテック領域キャピタリストとして活躍する有馬とのパネルディスカッション形式でお届けしていきます。
商社で20代を過ごした経験がスタートアップ経営にどう活きるのか?これから商社出身者に求められる能力とは?ぜひご覧ください。
【リージョナルフィッシュについて】
京都⼤学⼤学院農学研究科の⽊下政⼈准教授、近畿⼤学⽔産研究所の家⼾敬太郎教授らの技術シーズをコアとして設⽴されたスタートアップ。 オープンイノベーションを通じて、超⾼速の品種改良とスマート養殖を組み合わせた次世代⽔産養殖システムを開発。2021年9月に、世界初のゲノム編集動物⾷品である、可⾷部増量マダイ「22世紀鯛」の流通を開始。また、2021年11月より、ゲノム編集動物⾷品の第二弾となる高成長トラフグ「22世紀ふぐ」についても流通を開始。「TechCrunch Tokyo 2021 スタートアップバトル」での優勝、「第4回 日本オープンイノベーション大賞 農林水産大臣賞」受賞
URL:https://regional.fish/
登壇者

リージョナルフィッシュ株式会社
COO
石本 俊輔 氏
丸紅にて水産物・水産飼料の販売に従事。その後、国内・東南アジアにおいて食品・小売事業の事業開発を社内外から主導・支援してきた実績を持つ。東大卒、MBA。

Beyond Next Ventures株式会社
Manager, Agri/FoodTech Lead Capitalist
有馬 暁澄
2016年 丸紅入社。穀物本部にて生産から販売までのアグリ全般のバリューチェーンに携わる。また、有志で投資チームを立ち上げ、アグリテックのスタートアップ投資にも従事。2019年8月 Beyond Next Venturesに入社し、アグリ・フードテック領域のキャピタリストとして投資や事業成長支援に従事。主な投資先:インテグリカルチャー、リージョナルフィッシュ、グリラスなど。
モデレーター

三國 弘樹
2012年4月 JAC Recruitmentに入社し、製造業を中心に担当し、若手・中堅と担当。2017年エグゼクティブ部門に異動し、ベンチャーキャピタルの投資先の経営幹部の採用に関わる。
2020年10月 当社参画。支援先の組織成長支援を行う。
商社出身者から見るスタートアップの景色とは
丸紅での経験
石本:有馬さんとは時期は被っていませんが、私と同じ丸紅の穀物部出身だったことが後々判明して正直驚いています。
穀物部というと、とうもろこしや大豆などボリュームの大きい商品を分業で回していくイメージを持たれるかと思いますが、私は、最初は魚粉・牧草など副原料といわれる、所謂、餌業界におけるサプリメントのような特殊商材を扱っていました。
とうもろこしの利益の1/10〜1/100程度の売上だったので、60名近くいたとうもろこしの担当者に対して、私とアシスタント2人だけのチームでした。20〜30種類の商材を一人で買ってきて売るという個人商店のような仕事をしていたのが私の商社時代です。
有馬:私も最初は大豆粕でした。大豆粕と菜種粕、それからDDGSというとうもろこしの残渣の3つです。私の時代はとうもろこしチーム20人に対し私のチームも2人でした。売上総利益ベースでとうもろこしチームの1/3ぐらいをあげていて、個人ベースでは我々のほうが稼いでるぞっていうプライドは持っていましたね。
石本:一人頭で考えると違いますよね。私の扱っていた魚粉とか牧草はバルク船ではなくコンテナベースの規模で、大豆粕の1/10の売上しかないところでした。穀物部に居ながら穀物に一切触っていなかったので、先輩に雑草ビジネスと言われるなど肩身の狭い思いをしていました。
有馬:雑草ビジネス(笑)。何年ぐらい勤めていたのですか?
石本:丸紅に在籍した5年間のうち3年半ぐらいです。魚粉や牧草など細かいビジネスを外に出そうというタイミングの最後の担当者が私でした。
石本:実はリージョナルフィッシュは私にとって7社目の会社です。丸紅退職後、MBAでフィリピンとスイスに留学。戦略コンサル2社を経て、ITベンチャーに経営企画部長として入りました。次がJINSというメガネの小売の会社で経営企画、事業戦略、新規事業、海外戦略の4つの部署の掛け持ちをしました。その後ファンドに移り、マレーシアのコンビニ事業とアイスクリームの事業展開への投資や事業開発などを担当していました。次の7社目が現在のリージョナルフィッシュです。
有馬:やれることの幅がどんどん広がっていますね。転職する際のきっかけはあるんですか?
「新しい当たり前を作る」
石本:私は「新しい当たり前を作る」ということを自分のテーマとして商社に入社して、これがその後の転職にもすべて影響しています。
商社に入社して3年ほど、社会人に成り立ての頃は成長曲線がものすごく大きいと思います。ただ、8~9年目の先輩が海外赴任し、後任として3年目のお前がやれといわれた時に、その先輩の仕事が3年目の私でも回せることを目の当たりにしました。その時が、転職のきっかけの一つになったと思います。
実は副原料は顧客にとって重要な商品にも関わらず、売上規模で切り捨てられ、とうもろこしに移ることに。お客様に付加価値を還元するという個人商店的な思考回路で動いていたものが叶わなくなり、それを自力で実現して生き抜いていく力が欲しいと思いMBAへの挑戦を決めました。
MBAは役に立つのか?
有馬:現役の商社の方もMBAに興味のある方は多いと思います。MBAには賛否両論ある印象がありますが、実際どうでしたか。
石本:MBAは、勉強よりもネットワーキングを目的とするなら行ったほうがいいという見解です。そこに集まる人たちはいろいろなバックグラウンドを持っていて、そのなかで意見を戦わせたりします。授業よりもクラスメートから学ぶものが大きく、そういうインタラクションを楽しめるかどうかですね。
彼らと協力して新しいビジネスをやってみようとか、MBAのフィールドを利用して会社とつながる機会をさがすとか、そういうことをメインに考えないと、身につくものが少ないと思います。
有馬:現在のリージョナルフィッシュのCOOになられた背景を聞かせてください。
石本:私の後輩のコンサル時代の同期が代表の梅川で、水産分野で起業したい人間がいるということで紹介を受けました。「新しい当たり前を作る」という私のポリシーと一致しており、彼の描くシナリオに強く共感しました。可能性があると感じ、関わりたいと思ったのがきっかけです。
私にとってのコネクティング・ドッツですが、農学部出身なのでバイオ関係の知識はあり、丸紅で水産飼料をやっていたので水産関係にもなじみがありました。MBAの経験から海外展開もイメージでき、コンサルとITベンチャーの経験から、経営やスタートアップの制度づくりなどの細かいところもイメージがわいていたこともあります。それだけでなく、営業や事業開発においても、メガネの小売や東南アジアの食展開などの経験が活きますし、今まで自分がやってきたものがすべて使えると感じました。総合的にこの会社に貢献できると考えたのが決定要因です。
スタートアップに活きる商社の経験
石本:商社は最強のオールラウンダーだと思います。商社時代の師匠から「ストロングスタイルで行け、なにが来てもちゃんとパンチを返せ」と言われていました。ここまで7社の異なったフィールドを通して経験値を上げることができたのは、このマインドセットがあったからだと思います。
商社の在籍経験がある方は能力値だけでどの分野に出ても60点(合格点)ぐらいは取れると思います。その上で、どんな経験を積むかによって80点まで伸ばせる。さらにその先を目指すためには専門性のある人材にバトンタッチして、自身は別の立ち上げ業務に移る、といった動き方がいいんだろうと思っています。
商社の下積み時代に叩き込まれたマインドセットはビジネスに確実に活きています。コンサルはロジックありきで現場が無視されることがある。商社時代の経験から、私は現場での感覚を意識しながらコンサル時代を過ごしたので、そこで得たものを自分のビジネスの価値観に活かすことができたと思います。
コンサルでは考え方のフレームワークを叩き込まれました。自分の持つスキルセットのなかでコンサルでの経験に裏打ちされたロジカルな部分は大きく、スキルセットを得る場としてコンサルは魅力的な場といえます。
有馬:それは商社ではなかなかできないことですよね。
石本:商社は感覚とか感性の部分が大きい。ただ、ロジックは極端な話、何でも正解にできてしまいます。ロジックにモメンタムを持たせるのがインスピレーションや価値観であり、価値観のベースを作る場として商社なのかなと思います。
もう一つ、商社時代の上司から教えられたことで印象に残っているのは、お客さんであれ、サプライヤであれ、委託先の業者であれ、自分のステークホルダーそれぞれにどんな価値を提供できるかを常に意識することです。そのおかげで事業に取り組む際、いろいろな視点を取り入れた見方ができるようになったと感じています。
転身する際の不安をどう解消するか
有馬:商社マンが他の業界に転身する際、年収や自分が通用するのかなど不安もあると思いますが、その辺りいかがでしょう?
石本:「案ずるより産むが易し」です。動けば結果はついてくる。スタートアップでは商社時代と同じ待遇を求めることはできないので、将来的にもとが取れるまで活躍する覚悟が待遇面の考え方です。
月並みな言い方ですが、商社の待遇を選ぶか、泥臭いところに身を置いてでも新しいものを作っていきたいかという生き方の選択だと思います。
有馬:成功すればの話ですが、ストックオプションがあればスタートアップのほうが有利なこともありますよね。
石本:そうですね。何を選択してもプラスとマイナスはついてきます。マイナスをマイナスと考えない心の持ち方と、プラスを最大化するための努力が必要だと思っています。覚悟を持って選択し、選択を正解にするために何ができるかを考えることが、これまで私がやってきたことです。
仕事の楽しさ、苦しさとは
有馬:商社時代、今も含めて楽しかったこと、嬉しかったことは何ですか。
石本:どの業界、会社でも同じですが、新しい事業を一つ作ったときです。
有馬:ゼロイチが好きなんですね。
石本:私の場合はゼロイチではなくて0.1から1みたいな感じですね。アイデアマンではありませんが、発想の種を形にしていくところは結構得意だと思います。
有馬:それは商社マンに当てはまりますね。
石本:商社時代に、植物タンパクに関わるメーカーとサプライヤーをつなげて2年間かけて一つのブランドを作りました。そのプロジェクトが一番楽しかった。
有馬:逆に、苦しかったことはなんですか。
石本:自分の仕事が認められていないという感覚に陥る時がありました。穀物部時代は金額で貢献度が目の当たりになりました。その時は自分の存在価値をどうやって作るかをずっと考えていました。
有馬:石本さんのキャリアのなかで、メガネ業界は異質だと思いますが、まったく知らない業界に飛び込む怖さ、また、商社の経験が活きたところを教えて頂けますか。
石本:私がメガネの会社を選んだ理由は、ずっとBtoBを手がけてきたなかで、消費者嗜好が多様化してきている時代の変化を踏まえると、BtoCの経験が足りていないと感じたことです。
確かに業界は違いますが、ビジネスのエッセンスは横展開可能だと思っています。その意味では自分の培ってきた経験はBtoCでも応用できると思っていたので、怖さはありませんでした。
ただ、社員の多くが接客からキャリアを始めた現場あがりの人がほとんどでした。そこではコンサルにありがちなロジックだけは通用しない環境で、信頼関係を築くまで時間がかかりました。
特に職人肌の人や現場の感覚に対して、視点の違いだけでなく、実際に体を使って動かないと認めてもらえません。その点で最初の入り方は重要だと思います。
一方で、フィールドワークは商社でも数多く経験していたので、現場というものに対してはポジティブに捉えていました。
また、メガネを作って売るまでのプロセスに関わるそれぞれのプレーヤーのマインドセットやモチベーションを理解しなければならない。視点の切り替えという点は商社の経験が活かせていたと思います。
有馬:現場のニーズを理解してやっていくところは商社マンっぽいですね。
有馬:参加者さんより質問がきています。スタートアップに飛び込む前、コネクティング・ザ・ドッツに当てはまらない環境はなかったですか?また、なりたい自分と今の自分のズレを感じることはありますか?
石本:世界にどう貢献して、どうやって必要とされる・認められる実績を作っていくかにやりがいに感じていたので、経験した転職先のなかにはズレを感じる会社は正直ありました。そういうときは、その環境の中で学べることを突き詰めつつ、自分のやりがいを叶えられそうな環境を探す形で、次の転職を検討するようにしておりました。
商社出身者に向けてメッセージ
有馬:最後に、商社出身の方々に対して、メッセージを頂ければと思います。
石本:私からのメッセージは、人生の多くの時間を占める仕事は、やりがいを感じ、それに打ち込める環境をいかに作るかに尽きると思います。大企業である商社のなかで実現できることも当然たくさんありますし、大きい仕事もできると思いますが、もっと自分の力を発揮したいと思っている方はスタートアップにぜひ挑戦していただきたいと思います。
リージョナルフィッシュは研究開発のフェーズから事業を展開していく段階に来ましたので、力を貸して頂ける方がいらっしゃれば、ご応募をお待ちしております。
三國:今日はみなさんありがとうございました。リージョナルフィッシュでは積極的に採用活動を実施しています。ゲノム編集技術で未来の水産を変える事業にご興味がある方は、下記リンク先をご確認ください!
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