大学発ベンチャーへ踏み出す研究者に伝えたい10のポイント

Beyond Next Venturesは、日々研究者の皆さんと共に、研究成果の事業化・新産業の創造を目指し活動しています。

近年は、政策や大学の後押しもあり、大学での研究成果・技術の実用化の手段の一つとして、ベンチャー化(起業)の流れが進んできています。その一方で、素晴らしい研究成果が事業としての成功を掴むまでの日々は、数多くの苦難と困難が待ち受けるいばらの道でもあります。

大学シーズの事業化に10年以上関わり、かつ「起業家」として日々挑戦する私・伊藤から、事業化に踏み出す研究者の皆様にぜひ知っておいていただきたい10のポイントをまとめました。ぜひ参考にしていただけますと幸いです。

1. リスクと向き合い覚悟をもって挑む

スタートアップが数多く生まれているアメリカでは、92%のスタートアップは3年以内に失敗したという統計があります。成功と失敗は隣り合わせであり、限られたチャンスを掴み取るために、持てる知恵とパワーの全てを注ぎ込むことになります。特に創業時は顕著で、休みもろくに取れず、緊迫した日々の中が続く中で、疲弊し心身に不調をきたす起業家も存在します。上記のようなリスクと向き合い、覚悟をもって挑むことで、その先の道筋が開けます。

2. 情熱とミッション

「研究成果により、大きな社会課題を解決し、社会をより良い方向に変える」ということに対して、どれぐらいの情熱をお持ちでしょうか。自身の根幹をなしている価値観や、そこに紐づく強い想いは、日々困難に直面する中で自身を支える柱となります。同時に、社会課題解決のために掲げるミッションが「世の中にとって正しいこと」であれば、必ず賛同してくれる人や仲間は見つかります。私たちも、そのような情熱を持った、世の中を本当に変えられることを期待できるような研究者の想いに共感し、出資をしています。

3. ビジネスマインド

自身の研究分野に愛情をお持ちの方ほど、その分野の「学術において革新的で優れた成果を残す」ということに心血を注いでこられた方が多いと思います。一方で、会社においては、時に研究よりもビジネスのためのリソースを割いたり、実用化に近い技術開発を優先することや、事業継続のために一定期間内で収益につながる成果を生み出すことが求められます。これまでの「研究」の延長線上とは、全く違うところに「ビジネス」があることを認識する必要があります。

4. 顧客の課題や市場のニーズへの理解

最先端の研究をしていた方ほど陥りがちなのが「この革新的技術を元に、どのような商品が生み出せるか」と、技術を起点に事業化を考えてしまうことです。しかし、生み出した商品が、市場の顧客が抱える課題解決に遠いものであれば事業は成功にたどり着けません。市場ニーズと技術開発を紐づけるためには、顧客候補となる人の元へ足を運び、生の声から課題を見つけ出し、何を解決するかを定義する活動が求められます。過去の事例を振り返っても、労をいとわず、研究者自らが積極的にユーザーの声を聞くことは成功に近づく重要な要素だと感じています。

5. 事業に対する信念

研究シーズの事業化のためには多額の資金を集めるために、多くの投資家との面談を行う必要があります。その面談先には、自身の技術や専門性を理解しきれない方も多く含まれることでしょう。そういった相手に対して事業化に挑む想いや自社の特徴・魅力を、繰り返し繰り返し説明を続けていくことになりますが、否定やダメ出しで埋め尽くされることもあります。当社も1号ファンドの初期の資金調達時には多くの方から断られ続けました。計画やプレゼンを見直し続け、諦めずやっていこうという強い意志をがなくては、資金調達を実現することは難しいでしょう。

6. 研究者からの批判

事業化を目指す上で、身近なところからも否定的な意見は投げかけられます。例えば、研究仲間から否定されることもあります。研究以外のもので勝負をすることへの理解がない方もいれば、時には直接的に「お金儲けに走っている」「研究者として実力が足りないからビジネスに逃げた」というような心ない言葉を投げかけられることもあります。この主の戦いは、注目を集めた時こそ大きくなり、成功を掴んだその後にも続きます。

7. 論理の正しさよりも実行力

研究の世界では、その主張の論理的な正しさが議論され、新たな発見やその正しさが評価されます。しかし、ビジネスの世界では、正論が受け入れられないことは日常茶飯事です。自分の描くプランに納得してほしいのであれば、論理的に考えて正しいことを主張するだけではなく、シンプルに実行に移し、その成果と実績をもって相手を納得させる行動力・実行力が必要です。

8. 事業への専念

投資家は、経営者などコアメンバーに対し、全力、そしてフルタイム稼働でそのスタートアップに専念しているかを、重要なポイントとして評価します。
もちろん、研究者自身が必ずしも経営に専念する必要はありません。自身は研究開発に軸足を置き、経営は別の方に任せるという選択肢もあります。その場合は、事業に専念できる人を社長として招き、ご自身は一歩引いて、研究の立場からそれを支えることになります。またCTOに技術指導するアドバイザーとしての関与もあるでしょう。
一方で、創業にあたって良いパートナーと巡り会えずに、研究者自身が仕方なく経営者となり、片手間での経営となった結果、事業立ち上げに苦労しているケースも数多く存在します。
理想は、創業前に事業を任せられる仲間を見つけ、研究者は事業を意識しつつも、得意な研究開発に専念できる体制をつくる。そして経営はビジネス経験豊富なパートナーに任せるのが、合理的で良い選択だと思います。

9. 仲間探しとチーム作り

ベンチャーの創業においては「チーム」がとても重要です。一人よりも2~3人で創業したベンチャーの方が成功確率が高いという統計データもあり、事業を成功させたければチームで創業したほうがいいと思います。
一方、経営者および創業メンバーの人選は難しいテーマです。一つの視点として、自分が今まで関わったことのない世界で仲間を探すことをお勧めします。
一般的に研究者の周囲には、技術には理解がある方が多い一方、事業や経営がわかる方はほとんどいないケースが多いです。
過去の経験上、失敗をしやすい人選は今までの自分のネットワークから「部下のような人」や「自分のいうことを聞いてくれそうな人」を選び、自分の立場を守ろうとしてしまうケースです。

まず、自身が成し遂げたいビジョンとミッションを掲げ、それに共感する人を探しましょう。自分より優秀な人、自分が持っていないスキル・経験を持つ人、自分と補完関係にある人を必死で探し、仲間に巻き込むことが大切です。そのためにはこれまで接点のないコミュニティにも入っていく必要があります。

10. 仲間への信頼と敬意

研究者と補完関係にある経営者やビジネスマンは、会社を支え合う大切な仲間です。創業チーム間において、何かを慮って発言できないことや、一部のメンバーしか発言が許されないような関係は望ましくありません。
研究者自身が長年研究開発をしてきた研究成果がなければ創業には至らなかったかもしれません。ですが、株式の持分や会社の権限が極端に研究者に偏ってしまうような、創業者間の権限や役割分担がアンバランスなチーム運営は避けるべきです。
特に研究者自身が、経営に関与する意思がなかったり、経営は苦手と認識している場合は、他のメンバーを信頼し任せる姿勢が必要となります。創業メンバー同士は、ビジョンやミッションに共感しつつも、それぞれの異なる強みやスキル・経験を認め合い、尊敬し、お互いに得意分野を任せられる関係が望ましいです。

最後に

これら10のポイントは、技術系スタートアップの成功と失敗を数多く目にし、いちベンチャー企業の起業家・経営者でもある私自身が、これだけは心得ていないと大きな落とし穴となり得ると考えているものです。
近年、政府のプログラムやベンチャーキャピタル(VC)の資金など、大学発ベンチャーを立ち上げる環境が整いつつあります。我々Beyond Next Venturesも、研究成果の実用化に挑戦する研究者を全力で応援しています。もし、最初の一歩として何から始めるべきか迷われている方がいたら、ぜひ私たちにご相談ください。

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Tsuyoshi Ito

Tsuyoshi Ito

CEO, Managing Partner